ナマコマルガザミ流、処世術。-ナマコよ、君は僕にとって隠れ家であり、食料であり、すべてだ-

僕の大変好きなジャズのナンバーに”All the Things You Are”というのがあります(作曲 Jerome Kern)。「君はわがすべて」と訳されるこのタイトル。本来は間違いなく恋の歌でしょうね(原作のミュージカルでは片思いの意中の相手への歌…だったはず)

今回、自分にとって”ナマコ”こそが”わがすべて”である、というカニが登場します。何を言ってるか分からない?ひとまず写真をご覧ください。

カメラ Panasonic DMC-GH4
レンズ LUMIX G MACRO 30mm F2.8 ASPH. MEGA O.I.S.
フラッシュ 内蔵フラッシュ使用
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ナマコマルガザミ

沖縄のサンゴ礁には、こんな感じの蛇の目模様がお洒落なカニがいます。その名もナマコマルガザミ(名前はあんまりお洒落じゃないな)。ちなみにこの写真の背景、何だと思います??

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でろーん!

 はい、ナマコでした。この写真だと分かりにくいかもしれませんが。

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クロテナマコ 。迂闊!今気づいたけどこっちサイドにも1匹おる!!!

ナマコマルガザミは、基本ナマコにひっついて暮らしています。クロテナマコを含めジャノメナマコ、クロナマコ、バイカナマコなど数種のナマコについているのが見られます。

体表にくっついていることもありますが、ナマコの口や肛門の中で見つかることも多いですね。ナマコにしてみれば、まさに「ケツを貸してる」状態と言ったところでしょうか。

…失礼しました。

で、このカニにとってのナマコという生物は

  • 一生の棲家であり
  • 食料であり
  • オスとメスの出会いの場であり

とにかく全てなんです。生活の全てをナマコに依存していると言っていい。

このカニがナマコを本当に食料にしているかについては、長らく確かな研究がありませんでしたが、Caulierさんらの研究者が2014年に出した論文でちゃんと確かめています。何と、カニの胃内容物を顕微鏡だけでなくDNA・同位体を使って調べています(Caulier et al, 2014. The diet of the Harlequin crab Lissocarcinus orbicularis, an obligate symbiont of sea cucumbers (holothuroids) belonging to the genera Thelenota, Bohadschia and Holothuria.)

なので、なにがあってもナマコから離れまい!という心意気でしがみついています。。

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「くぎゅぅぅぅう」

もうハサミでギッチリというかガッチリ、ナマコの体表をつかんでいます。よく見て下さい。ハサミ以外の歩脚もナマコの体表に食い込んでいるのが分かります。

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「離れるもんかぁ!」

ひっくり返したところ。よく見ると歩脚の先が少し曲がって鉤爪になっているのが分かります。

でもナマコにくっつく人生(?)ってそんなにいいのか?こればっかりは彼らに聞いてみないと分かりかねますが、ナマコにつくのには次のようなメリットがあると考えられます。

  • ナマコはサポニンという系統の毒を持っていて、食べられることが少ない。だから安全
  • ナマコは下手な石と違って、砂に埋もれていったりしないので長く住める
  • 食料には困らない

ナマコマルガザミ自体はナマコの毒に適応しているようです。また、食べると言ってもナマコが弱るほど食べちゃうのではなく、ナマコ以外にも周りにある海藻や有機物などを食べているらしい。でもナマコにしてみたら迷惑だろうなぁ。。

ちなみに、1匹のナマコには通常1匹、もしくはオスメスのペアのナマコマルガザミが住んでいます。なぜ都合よくペアになるのかというと、ナマコの下に鉢合わせたのが同性の個体だったら戦って殺してしまうからだそうな。

(Caulier et al, 2012. Characterization of a population of the Harlequin crab, Lissocarcinus orbicularis Dana, 1852, an obligate symbiont of holothuroids, in Toliara bay (Madagascar))

こうしてレモンの樹の下*1…ではなくナマコの下で出会ったナマコマルガザミのカップルは産卵し、卵は海中に散っていきます。

*1 Lemon Tree by Peter, Paul & Maryより

そして卵から孵ったカニはメガロパ幼生という”カニになる前の形態”に成長し(この辺は他の多くのカニも同じ)、なんと広い海中でナマコを見つけて取り付きます。さらによくできたことに、その際、先ほどお話したナマコの毒であるサポニン類を頼りにナマコを見つけるのだそう。

Lyskin & Britayev, 2001. Description of the megalopa of Lissocarcinus orbicularis Dana, 1852 (Decapoda: Portunidae: Caphyrinae), a crab associated with tropical holothurians.

Caulker et al, 2013. When a repellent becomes an attractant: harmful saponins are kairomones attracting the symbiotic Harlequin crab.

ちなみに後者の論文には、意訳すると「嫌なモノが惹きつけるモノになるとき」というちょっとお洒落なタイトルがついています。同種の生物を惹きつける物質を「フェロモン」というのに対し、こういう他種の生物を惹きるける物質のことを「カイロモン」と言います。

いや〜、海の生き物の生き様は摩訶不思議です。ときどき「こんなのアリか!?」と我々が驚くような生き様を見せてくれるものです。

それにしてもナマコマルガザミ、研究者に人気ありすぎです!何本論文読んだと思ってんだチクショウ!

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